誰かが泣いてる 小さな声で
子フグ1号の、小さな嗚咽が聞こえる。
今年一番の寒さとなった昨晩。ゆっくりと愚妻の母親の心臓の鼓動が止まった。
子フグ1号は、母系一族の初孫だったため、義母に一番可愛がってもらったように思う。
長女が生まれたばかりの頃。愚妻の実家で、風呂上りの娘をバスタオルの上であやしていた、柔和な顔の義母を思い出したりしたが、ふと見ると、そのときに敷いていたモスグリーンのバスタオルが、今もそこにぶら下がっていた。
「丹下サン、いらっしゃい。何飲むの?おつまみは、お刺身でいいよね?」
結婚当初から、酒好きのワタシを気遣って、家を訪れるたび、間髪入れず酒を出してくれ、美空ひばりと石原裕次郎が好きな、陽気なお母さんで、出身はワタシの故郷の近所。
大きな船主の六人兄弟の末娘で、
「山口は田舎で嫌だったから、家の反対を押し切って東京に出てきたのよ。そしたら、なんだかお父さんと知り合っちゃって、嫁に入っちゃったのよね」と、いつも暢気に笑い、故郷の話を酒のつまみに、長っちりのワタシの酒に付き合ってくれた。
昭和10年生まれで享年72歳。
ウチの母親と同い年である。
連れ合いとも同学年。
晩年になっても仲がよかったのは、そのせいもあるのだろうか。
「いやぁ。女房が倒れたときは、俺一人残されるんじゃないかと、ヒヤヒヤしたよ」。
一昨日。一度血圧が上がって意識が戻ったとき、愚妻の実家でビールを飲んだ際。ふと岳父の本音を聞いたような気がしたが、92歳となる自身の母親を抱え、途方にくれる大男の背中が寂しい。
末期の水を取った愚妻も、笑い声が漏れるようになったが、からかうと緊張の糸がプッツリと切れるかもしれない。
静かに故人を思う、寒い夜である…。