「ある馬主の悲哀の巻」
6月20日のスポーツ紙によると、元プロ野球投手・佐々木主浩氏が競走馬を所有したそうだ。
ホッカイドウ競馬で7月にデビュー予定のその馬は、ミスターフォーク。
佐々木の競馬好きはつとに有名であったので、やっと本懐を達成したということだろう。
馬名は、ダイマジンだと予想していたが……。
これで落馬なんてしたら、翌日の新聞には、
「伝家の宝刀、佐々木のフォーク、落ちた!」
なんて見出しでも載るのか。
もう15年ほど前になるが、わたしが初めて競走馬に出資したのは、タイムトラベラーという馬だった。
父ノーザンテースト、母ジュウジアローという血統。生産は社台。
松本捷平さんという大先輩のライターがいた。
『週刊宝石』を中心に活躍されており、競馬では、『競馬の達人』や『競馬最強の法則』などで健筆を振るっていた。
特に、地方競馬モノのでは第一人者だった。
その松本さんが、学研の社長・古岡秀人さんを取材したときのことだった。
古岡さんは、中央競馬の馬主さんとして有名だ。
鳴尾記念3着のカゲマルや、富士S勝ちのオラクルアスカなどを所有していた。
「古岡さんが、タイムトラベラーって馬を譲ってくれるというんだよ」
興奮した口調で、わたしの編集部に電話がかかってきたのだ。だからすぐに、200万円を調達してほしい、と。
そんな、いきなり200万だなんて。
それでも、この機会を失うと引退させるだけと言うので、編集長以下部員が手分けして、お金を出してくれそうな人を探した。
わたしも何万円か出資したわけだ。
こうして手に入れたタイムトラベラーは、松本さんの口利きで宇都宮競馬の所属となった。
中央競馬では1勝しかできず、仕方なく障害でも走っていた馬とはいえ、地方競馬なら活躍してくれるだろう。
そんな期待を胸に、出資者一同、こぞって宇都宮に向かった。
何でも、当時、ノーザンテースト産駒の入厩は宇都宮競馬では初めてだったそうだ。
転厩緒戦は、何番人気だったかは忘れたが、とにかく中団あたりから外目を差し切ったことだけは覚えている。
枠連で、たしかぴったり1万円の万馬券だったはずだ。
しかし、栄華を誇ったのはその一戦だけ。
後は、泣かず飛ばずで、いつの間にかいなくなってしまった。
賞金から飼い葉代を引かれるなどして、わたしの手元にはいくらも返って来なかった。
今回、この原稿を書くにあたり、タイムトラベラーの情報を検索してみたのだが、まったくヒットせず。
まだ、この世で元気にしているのだろうか。
松本さんは数年後、取材先の神戸で亡くなった。
宇都宮競馬も、昨年、閉鎖された。
カーカーカー。
今日はちょっとしみじみとした、懐かしい思い出でした。