「パソコン予想、是非の巻」
9月2日の『明日のレース分析』(グリーンch)の関東ゲストは、市丸博司さんだった。
「パソコン競馬ライター」
として大活躍をしている市丸さんとの出会いは、もう14〜15年前にさかのぼる。
当時、競馬雑誌を創刊するためにデザイナーを探していたわたしは、ツテを頼って、東京・早稲田のあるデザイン事務所を訪れていた。
ひと通りの打ち合わせを終え、帰ろうとしたときに、部屋の奥から、「すいません」と話しかけてきたのが、彼だった。
市丸さんも別の打ち合わせで訪れていたので、いま思うと、偶然の出会いだったのかも知れない。
「先ほどから聞き耳を立てていたんスが、ボク、競馬、大好きなんスよ」
ライターとして、多少は競馬関連の執筆をしていたそうだが、まだ、「市丸博司」をアピールする仕事はしていなかった。
こちらも当然、新しい執筆者を探していたわけで、渡りに船。
さっそく、新雑誌のライター陣に参加していただくことにしたのである。
当初の市丸さんは、コンピュータの「コの字」も言わなかった。
取材記事を主に担当してもらっており、自分からは、ハギノカムイオーとその血統背景である「華麗なる一族」の話とか、吉永正人騎手の記事を書きたいと言っていた。
今でこそ、単なる馬券オヤジ扱いを受けているが、底に流れるのは、けっこう熱い「ロマン」なのだ。
しかし、新雑誌が求めていたのは、そういった「心の文章」ではなく、「金の文章」。
馬券による錬金術を求めていた。
そんなときに、ふと、
「走破タイムを指数化していく馬券術が、静かに流行りはじめていますよ」
と、教えてくれた。
当時、一戸秀樹さんがパソコンを普及する目的で、競馬を材にとった本を出版していたり、米国のアンドリュー・ベイヤーのスピード理論がある、ということくらいは知っていた。
が、数字だけで競馬をすることに興味はなかった。
そこで、同僚の城崎哲に、市丸さんを紹介した。
城崎は理系出身で数字に強く、パソコンに詳しかったからだ
(その城崎も、いま、白夜書房から『コースの鬼』を出版したり、『競馬王』の常連執筆者として活躍中)。
市丸さんが、「パソコン競馬ライター」として一気に駆け上っていくのは、その頃からではなかったか。
城崎は、西田和彦さんの『西田式スピード指数』の出版も担当しており、そこに市丸さんを組み合わせ、このトリオは、それまでの馬券術の流れをガラリと変えてしまった。
馬が数字で走ることを、世間に認めさせたのである。
現在の指数系予想は、九分九厘、この時期の記事に感化されているはずだろう。
そして、この指数系予想の流れを変えるような馬券術は、それ以降、現れていない。
市丸さんは、大仕事をした。
単なる馬券好きのハゲ親父ではないのである。
と、この原稿を書いている今、競馬門外漢の友よりメールあり。
曰く、
「……『リトル・ロマンス』っちゅう映画を観たことありまっか。
男の子と女の子が、フランスからヴェネチアに行く家出資金を作るために、なんと馬券勝負に出るんやね。
競馬予想を趣味にする男の子の経験と、女の子の親っさんの会社にある大型コンピュータの力を合わせて、ま、ボロ儲けするっちゅうわけや。
これ、30年近く前の映画やで。
パドック云々言うてるあんたは、もう、ド古い。
ブログのネタに困ってるっちゅう話やったんで、ひと言ご連絡。
ま、がんばれ」
アンドリュー・ベイヤーが初めてスピード理論を発表したのが72年。
この映画は79年の作品。
わたしがパソコンを使い始めたのは、……06年3月。
カーカーカー。
市丸さんの軍門にくだるべきか。
コンピュータ予想を嫌い続けるべきか。
アイアム、ハムレット。
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