「非日常到来の巻」
「……当たる、当たらない、当たる、当たらない……」
近所の寺の境内から野草を抜いてきて、今週の吉凶をひたすら占っています。
先々月、44を迎えました。
丸一日、葉っぱをむしっています。
先行きが不安です。
当たらないのです。
まったく。
ここ3週間、東京競馬場に通い詰めていますが、一ヶも当たっていません。
まるで、これまでの人生を否定されたような惨敗です。
◎が着外になるのなら、あきらめもつきます。
3着とか、4着とか、惜しい競馬ばかりだから始末が悪いのです。
何とかこのオケラ地獄から脱出を図りたいのです。
ですが、どうしたらいいのか分からないのです。
おそらく、外れることが日常になっているのです。
的中という非日常を得て、それを連続させて、的中が日常にならなければいけません。
ならば、どうやって非日常を呼び込むというのでしょうか。
何か、きっかけが欲しいのです。
非日常は、ある日とつぜんやってきました。
11月9日(木)の午後4時過ぎ。
その日の徹夜仕事に備えて昼寝をしていました。
夢の中でも、上方で「パチパチ」と音がするのは聞こえていました。
ただならぬ状況というのは、寝ていても感知するのですね。
その数分後です。
にわかに周囲が騒がしくなりました。
そして、赤色灯の光が部屋の中にも入り込み、目がチカチカして起きました。
「うーん」と背伸びをしてから大きく深呼吸をするのが、一般的な起床の儀式です。
すると、きな臭い匂いが鼻の奥底まで侵入してきたのです。
「やべっ」
と思い、ベランダに出ます。
ボクは、3階に住んでいます。
眼下には、はしご車2台を含め、計8台の消防車が集まっています。
マンションを大勢の野次馬が取り巻いています。
彼らの目の前に、ボクがパジャマ姿で現れたわけです。
かつて『プロジェクトX』で見た、そのまんまの屈強そうな消防士さんが、拡声器で叫びます。
「ベランダにいるお兄さん! 危ないから、部屋の中に戻りなさい!」
言われなくても引っ込みます。
ボサボサ頭でパンツに手を突っ込んだ、だらしない姿を、多くの皆さんに晒してしまったのですから。
急いでシャワーを浴び、身だしなみを整え、スーツに着替えて、外に出ました。
人前ではスーツ。
これが、ボクの流儀です。
そして、野次馬の一員になりました。
隣のビルから出火した火事は、その後、約1時間ほどで鎮火したようです。
おかげさまで、延焼は避けられました。
夕焼け空ではヘリコプターが周回していました。
この非日常的な出来事を境に、もしかしたら、昨日まで吉凶を占っていたボクと、今のボクでは、日常と非日常がひっくり返ったかも知れません。
部屋に散乱した葉っぱを片付けました。
まだ、2本の野草が残っています。
「……当たる、当たらない、当たる、当たらない、……当たる!」
いよいよ、運が巡ってきたようです。
隣の火事ごときで人生が変わるとは思いませんが、藁をもつかみたい今は、それを信じるしかありません。
ちなみに、「エリザベス女王杯」は、◎スイープトウショウで勝負します。
穴は、ヤマニンシュクルです。
日曜の夜には、生まれ変わった自分に会えるといいな。
カーカーカー。
「……当たるような気がする!」(ⓒ丹下)。
皆さん、火の元には注意してください。
丹下さんは、灰皿に吸いかけのタバコを置いたまま、2本目に火を点けないように。
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