「大塚まさじさんのこと、の巻」
ライター仕事をしていると不規則な生活が普通で、その日も深夜になって夕食をとりに、四谷・荒木町「秋田北秋田」という焼き鳥屋へ。
競馬好きの兄ちゃんと一杯呑んでいたら、
「ねぇ、トイレにこのチラシ貼らせてくれない?」
と、BAR「461」の奥さん。
「そっちのお客さんも、よかったら来て下さいね」
と誘われてしまった。
「大塚まさじ」
というシンガーの名前だけは知っていた。
お金を出してまで行くつもりはなかったが、
「これも縁だから、必ず来てよ」
と言われてしまえば仕方ない。
大塚まさじさんは、1971年に発表した「プカプカ」を唄ったバンド「デュランⅡ」のメンバー。
「♪おれのあの娘はタバコが好きで、いつもプカプカプカ〜」
と言えば、少なくとも丹下は知っているだろう。
10月21日。
お客さんは15人ほど。
ゆっくりとギター1本でのパフォーマンスを楽しむことができた。
いや、最近ではめったに遭遇できぬほどの、素晴らしいライヴであった。
ほのぼのとして、唄に心がこもっていて。
何より、詩を丁寧に扱った曲調が人柄を表している。
涙が出そうになっちゃった。
そんな心境だったかも知れないのだが、60〜70年代のリズムを色濃く残しており、わたしの音楽感にビシッと入り込んでくるのだ。
大塚さんは、今は大阪の茨木に住んでいるが
(「僕の親友は、歩いて数分の場所にいる太陽の塔です」なんて言っていた)、
来月には兵庫の丹波篠山に引っ越すそうだ。
その山奥から、日本中を唄い歩くことになる。
30代から、ギター1本で一人旅を続けていて、全国各地のライヴハウスを回る。
ライヴハウスだけではない。
農作業を終えた畑の真ん中だったり、ビニールハウスの中だったり、それが月明かりの下だったり。
まるで吟遊詩人とでも言ったらいいのか。
なんとうらやましい人生であろう。
ちなみに、年明けにはNHK連続テレビ小説「芋たこなんきん」に、牧師役で登場する予定だそうだ。
主人公が70年代に反戦フォークに熱中するというベタな設定で、大塚さんがフォークの世界に入ったのが、大阪の教会だった。
そこには当時、もんたよしのりも来ていたそうだ。
で、その教会が舞台になるので、現在50代の大塚さんに牧師役が回ってきたというわけ。
大塚さんのMCを聞いていると、もちろん根っこには「人間」がある。
しかし、「街」も大きなモチーフになっているように感じた。
個人個人の生活感でなく、街全体がかもし出す生活感というか。
そこで、ふと思い出したのが、以前、地方競馬のライターの言った言葉である。
「地方競馬が盛り上がらない。上の人はアイドルホースだの、ヒーローだのを作り出そうとするが、そんな人工的な馬を作ったって、いっときのブームにしかならんよ。おれは違うと思うね。馬が好きだっていう、街づくりをしなければ」
地方競馬のあと、居酒屋に入る。
そこで、馬にまつわる取材をしたいのだが、馬を知っている地元民が少ないというのだ。
それが、寂しいと。
その寂しさが伝播していって、競馬が廃れてしまう。
競馬場だけでなく、その近隣ではいつも競馬の話で盛り上がっているような街づくり。
これが、地方競馬再生に必要なテーマだと言っていた。
カーカーカー。
大塚さんのような人に、競馬場のある街々で、その街々の歌を作りつづけてもらいたい。
そうも思ったライヴだったのでした。