「藤代三郎さんとの仕事の巻」
先週の日曜日に、丹下に首を絞められました。
金のあるところに嗅覚が働くというか、その日ボクは「おとなの馬券学」で馬券買いの取材を受けていたのだが、ちょうどニードルポイントが勝ったレースのときだけ一般席に降りてきて、ボクの馬券が的中したのを見届けるや、「栗ちゃん、ごっちー」と言い残して記者席に戻っていった。
これまで、他人の予想や馬券術を取材することはあったが、自分が取材されるのは初めて。
いかに自分が理論を持っていないかがハッキリした。
相手を納得させるほどの理屈がない。
言ってみれば、これまで会った人の予想方法の「つまみ食い」で馬券を買っている。
ニードルポイントは丹下からの情報ということになる。
ダイレクトキャッチは、「エイト」のヒロシTMのコラムを読んで。
外れはしたが、3歳未勝利は某新聞の指数を参考にしているし、ハンデ戦はかつて担当した片岡勁太さんの理論や「競馬ブック」牟田雅直さんの意見を参考にしているし。
独自の馬券術がまったくない。
強いて言えば、パドックになるが、それを言葉に表そうとしても難しい。
でも、プラス計上で、何とか面目を潰さずに終えた。
緊張したのは、取材者が「藤代三郎」さんだったから。
「ギャロップ」はじめ、競馬雑誌ではしょっちゅう見かける名前ですよね。
主に、文芸評論を書くときは「北上次郎」さん。
エッセイや私小説では「目黒孝二」さん。
と名前を使い分けている。
「群一郎」というのもあったが、目黒さんが椎名誠さんたちと「本の雑誌社」を立ち上げたころの社員だった女性が作家デビューするときに「群」を寄贈したそうだ。
彼女とは「群よう子」さん。
「よう子」は目黒さんの初恋相手の名前だったとか。
言わば大先輩に取材を受けるわけで、ちゃんと答えられるように予想メモなんぞを作って行った。
丹下も書いていたが、その後の呑み会での出版事情や昔の出版界の話が何とも興味深く、とても有意義だったのでした。
その藤代さんに、個人的に名著だと思っている「鉄火場の競馬作法」(光文社・カッパブックス)がある。
序章「なぜ、いま競馬作法なのか」・第1章「掛け声作法」・第2章「観戦作法」・第3章「馬券作法」・第4章「指定席作法」。
たとえば、掛け声作法のひとつ。
1、 まず、馬群を抜け出るまではじっと我慢。この段階で「差せ」と言ってはいけない。
2、 脚色を見て、出てこれそうだなと判断したら「出てこい」と力強く最初の発声。
3、 次に、まだ伸びると判断したら、初めて「差せ」と叫ぶ。
4、 前を行く馬との脚色の差を見て、ゴールまでにぎりぎり差せると判断したら、ここからは「差せ差せ差せ」の3連発。
といった具合に、正調「競馬の作法」が記されている。
「逃げ馬を買ったときの正しい『そのまま』」・「低配当(15倍未満)馬券で叫ぶな」……。
見出しを見ただけでも読みたくなるでしょう?
藤代さんは、「ウマゲノム版種牡馬辞典」(今井雅宏著・白夜書房)を、ノーベル文学賞をあげたいくらい素晴らしい本だと絶賛していた。
読んでないから知らないのだが、種牡馬の心身構造を分析した本とのこと。
最近ではもっとも画期的な馬券本だという。
藤代さんは、馬券本収集家でも有名で、高本公男さんの初版本も持っているというのだから、「馬券術史」にもとても詳しい。
藤代さん、朝日新聞で書評委員をしていたときに、この本を取り上げたそうだ。
朝日の担当者は、馬券本ということで嫌な顔をしたそうだが、紙面に載せるや出版社には注文の電話がひっきりなしだった。
ちなみに、「テレビ山梨杯」2着のサクライナセ。
この本によると、「サクラバクシンオー産駒の2ヵ月半ぶりくらい」が狙い目なのだそうだ。
カーカーカー。
そういうわけで、ボクも藤代さんとおよそ10年ぶりに会えてうれしかったのでした。