「金を払ってでも聞きたい話の巻」
札幌記念の日の「A1ニュースステージ」のゲストは、元ジョッキーの坂井千明さんだった。
ゲストは、レースを見終わって、スタッフからの電話を待つ。
それは自宅であったり、競馬場であったり、この日の坂井さんは後楽園場外であった。
おおよそのレースポイントを伝え、18時ごろにスタジオにやってくる。
その間、電話で聞いたポイントが視聴者に分かりやすいようにVTRを編集しておく。
スタジオに到着後は、ざっとレースの印象を打ち合わせ。
まぁ、雑談程度であるが、坂井さんの話を聞きつつ、プロデューサーやディレクターが、
「その話をぜひ、本番でしゃべってくださいね」
などと、構成を練り上げていく。
「じゃあ、編集室に入って、VTRと話を突き合せましょう」
この編集室での最終突き合せが、もっとも興味深いところである。
すなわち、曖昧なことは本番では語れないが、その曖昧な推理をゲストから聞けるからである。
騎手心理が、その最たるもの。
坂井さんは、アドマイヤムーンの武豊騎手について、
「後方からの競馬になったのは仕方ないけど、ペースが遅いから、間に合うのかどうか、ヒヤヒヤしていたと思うよ」。
それは、後方から行く他の馬も同じで、3〜4角で、まずマヤノライジンが早目に動き、それに合わせるように、レクレドール、エリモハリアー、そして、アドマイヤムーンが動いていった。
安藤勝騎手のエリモハリアーは、このレースで函館記念に次ぐ「サマー2000シリーズ」2連勝を狙っていた。
すなわち、勝ちにいく仕掛け。
武豊騎手は、それを競りつぶすべく、マークしていたはずだという。
「うまいなぁ」
坂井さんが唸ったのは、パトロールVTRで、直線、アドマイヤムーンがエリモハリアーの前をカットするように入り込んだとき。
「エリモハリアーはズブいから、早目にスパートしてエンジンを全開にさせなければならない。それをユタカは知っているから、相手がトップスピードになる直前に前に入り込んだんだ」
トップスピードになってから前に入り込めば、審議の対象になる。
これは、
「相手の脚色と自分の脚色の違いを分かっていなければ、できないテクニック」
で、他馬の前に切り込むことは、かなり勇気のいることでもあるそうだ。
そこでいったん止められたエリモハリアーは、再度エンジンをかけ直さなければならない。
ゴール前で突っ込んできたが、時すでに遅しというわけだ。
武豊騎手の戦略勝ち。
審議になるかならないかの、ほんの一瞬のタイミング。
これを即座に判断できるのがトップジョッキーの証だという。
こういった話は、生放送でどこまで伝わるか。そこが我われスタッフの苦労のしどころだ。
単に上手い下手だけでなく、「勝負どころ」がリアルに伝わるように、番組を作っていかなければならない。
カーカーカー。
それにしても、こういう話は、
金を支払ってでも、聞いておきたい。