「祝・城崎哲さん、の巻」
先日発表された「馬事文化賞」を、城崎哲(じょうさき・てつ)さんが受賞した。
著書『カリスマ装蹄師・西内荘の競馬技術』(白夜書房)が対象作品である。
とても嬉しい。
というのは、城崎さんは友人であるからだ。
3歳年上で、ベストセラーズという出版社の『競馬・最強の法則』編集部で席を並べていた。
少なからず彼を知っているだけに、今回の受賞は、城崎さんの力はもちろんだが、担当編集者の金子クン、そして奥さんのガンバリも大きかったのではないかと思うのだ。
城崎さんは、最初に会ったときから変わった人だった。
ベストセラーズに入社した日(そのときは別の編集部だった)、社員の間で「おいおい、変なヤツが入社したらしいよ」というウワサが駆け回った。
編集者らしからぬ、「科学者のような白衣を着て仕事をしていた」からだ。
ちょっと常識とは離れているな、というのが第一印象。
ボクにとって、好奇の対象者であったわけだ。
同じ編集部になってからは、よく呑みに行ったり、競馬に行ったりした。
いつも突飛なことを言うので、面倒くさい反面、ずいぶん勉強になった。
たとえば、カラオケスナックに行く。
深夜3時ごろ、ボクはもうヘロヘロ。
「城崎さん、もう帰りましょうよ」と言うと、「分かった。じゃあ、あと30曲、歌ったら帰ろう」と応える。
普通なら「あと1〜2曲」でしょう。
いつものことなのだが、カラオケブックの全てを歌う気でいるのではないかと思うほどなのだ。
しかし、向こうもヘロヘロ。
3曲くらい歌わせて、「城崎さん、もう27曲歌いましたから、あと3曲だけですよ」と言うと、「けっこう歌ったから、オレも疲れてきたよ」と、まるで『時そば』のような掛け合いで、白々とした夜明けのなかを帰るのが、オチなのだが。
それほどに、興味を持ったことに対しては粘着質で徹底する。
たとえば、新潟競馬場の帰りに「海水浴」に行こう、という話になった。
当時の編集長が車を運転して、城崎さんがナビゲーター(ボクは後ろで寝ているだけ)という形だ。
城崎さんは、単に「泳げればいい」とは考えない。
最高の海水浴場を探し当てるまで、一歩も引かない。
新潟県は、海岸線に沿っていくつもの海水浴場がある。
雰囲気や景観だけでなく、城崎さんは「水質調査の資料」まで持ち出してくるのだ。
猛暑のなか、運転する編集長に向かって、「ここは水が濁っているからダメ。あと約10分、南下して下さい」なんてことを永遠に言い続ける。
編集長は怒り出すし、寝ているボクはグダグダ。
何時間も探し続けて、城崎さんのOKを出した海岸で泳ぐこと、わずか30分。
泳ぎに来たのか、探しに来たのか、分からない。
それほど、ささいなことに対してまで異常なほど好奇心を持つ。
たとえば、城崎さんは一時、「中小企業の社長になるのが夢」と言っていた。
いつものように、メシ食いに行こうと誘われる。
ドキリとした。
今日は何をしでかすのか。
その日は、「今夜は、オレが小売業の社長になるから、栗ちゃんはコンドームの製造会社の営業マンというシチュエーションで呑もう」
女性が多くいるクラブへ行くと、すでに社長面になっている。
まずは、金を持っているところを示すために、ボトルとともに、「花火(線香花火のようなもの)付きのフルーツ」を注文する。
ボクはへりくだって、「弊社で世界初の超極薄の製品を作りましたから、社長の店で販売して下さいませんか」と営業マン面になる。
「おお、ならば、実験しなければいけないな」と、店の女性を自分の回りにはべらして、「試供品を使いたい人は、手ェ上げて」。
また女の子が、騙されて手を上げるのだ。
「チミ、この前誘ったときは、付き合っている男はいないと言っていたが、いい人でもできたのか。ワハハハ。では、あとでひとつあげるね」といった感じだ。
もちろん、最後にはネタをバラすのではあるが、思いもよらない呑み方に、ボクは本当に楽しかった。
それほど、何を言い出すのか分からない奇抜な発想力を持つ。
常人を超えるほど好奇心旺盛で、粘着質で、とんでもない発想力。
いつ会っても感心させられる。
こういう星の下に生まれてきたのだろう。
しかし、ざっと、こういう城崎さんだからこそ、それに振り回される人はたいへんだ。
ボクは友人として「遊び」だけの付き合いだが、仕事相手として付き合った担当編集者の金子クン、私生活でこれからも付き合い続けなければいけない奥さん。
この二人が、しっかりと彼をコントロールしたからこそ、今回の受賞作品が出来上がったと思う。
じつは、この作品は当初、他の出版社から出る予定だったのだ。
ボクの知っている詳細は省くが、そこでトラブルになり、白夜書房から発売されることになった。
「曰く付きの作品」であり、長きに渡って暖められてきた作品である。
だからこそ、城崎さんの喜びもひとしおではないかと思う。
城崎さん、心より、おめでとうございました。
カーカーカー。
何も競馬だけではない。
ボクは城崎さんの習作を読んでいるが、小説を書かせても、たいしたもの。
今回の受賞作だって、読み物として十分楽しめる。
文芸編集者の皆さん、ぜひ、フィクション物を書かせてあげてください。
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